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名古屋高等裁判所 昭和29年(ラ)73号 決定

抗告人 工藤国太郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告代理人等は右更正決定を取消す。との決定を求めた。

抗告理由の要旨は本件更正決定は競売の目的物中に従物定着物悉皆を附加したのであるが、従物定着物は抵当権設定当時存在したものに限り抵当権の目的物となるものであつて抵当権設定後に附加せられたものはその目的物とならない。本件において抵当権の設定ありとせられる昭和二十八年十二月二十五日当時においては建物は六分程度竣工して居たに過ぎず、この事は債権者自身も自認して居るところであり従物、定着物は全然附加せられて居らず、現在本件建物中に畳建具が積重ねられているがこれは明にその後附加せられたものである。然るに本件更正決定はこれら従物定着物全部を競売の目的物に附加したのであるから明らかに違法で取消さるべきものである。というにある。

案ずるに、抵当権の効力は特段の事由のない限り目的不動産に附加して不動産所有権の内容を構成するものについては抵当権設定当時既に附加せるもの、その後に附加せるものすべてに当然及ぶものと解すべく、本件記録編綴の金銭準消費貸借契約公正証書正本、各登記簿謄本によれば、抗告人は昭和二十八年十二月二十五日債権者安達富男に対し右公正証書により本件競売の目的不動産たる抗告人所有の宅地各建物及びその従物定着物悉皆につき抵当権の設定をなし、右各建物については右同日その保存登記手続のなされた事実を認めることができ、抗告人の疏明方法によるも右の当時右各建物が六分程度竣工して居たに過ぎなく、債権者自身もこれを自認している事実を認めることはできない。而して原審における債権者安達富男の審訊の結果疏甲第二号証(写)によれば庭木、石燈籠その他庭石、竹神垣、手間垣等は右公正証書作成当時はなく昭和二十九年三月頃に至つて抗告人によつて右宅地に附加せられたことが認められ、又右債権者の審訊の結果によれば本件建物の建具は右公正証書作成当時より現存のものが入れてあり畳も既にできていてただ都合上運び込んでいない丈であつたため当事者協議の上これは後日運び込むことにし、且つ本件建物の従物としてこれを抵当権の目的に加える約定であつたことが認められ、右認定に反する疏甲第一号証(写)の記載は右債権者の審訊の結果に対比して措信し難い。

果して然らば本件宅地に夫々附加せられた庭木、石燈籠、庭石、竹神垣、手間垣等は反対の疏明がないから本件宅地に定着附加せられて之の構成部分となつたものと認められ、従つて之の附加の時期を問わず当然本件抵当権の効力の範囲内にあるものと解すべく、又本件建具は本件抵当権設定当時は本件建物の従物たる状態にあつたものとして当然本件抵当権の効力の範囲内にあることが明かであり、更に又本件畳については本件抵当権設定当時には本件建物の従物の状態にあつたとはいえないが前示説示のように既に本件建物に運び入れるばかりの状態で且つ当事者間にこれを本件建物の抵当権の目的とすることが約定されていたのであるからこのような場合は之の畳が本件建物に設備されると同時に本件抵当権の効力の範囲内に入つたものと解するのが正当である。

従つて記録上明らかなように原決定が昭和二十九年七月二十九日なされた不動産競売手続開始決定の不動産の表示の末尾に「従物定着物悉皆付」と附加して同決定の更正をなしたのは必ずしも不当とはいえないのであるから、本件抗告は理由のないものとして棄却を免れず、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条第一項によつて主文のように決定する。

(裁判官 山田市平 県宏 小沢三朗)

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